なぜあの会社は採用できている? 知名度が低い地方の中小企業に応募が殺到する理由【成功事例3選】
「うちは地方だから」と、採用を諦めていませんか?
「求人を出しても、まったく応募が来ない」 「都会の大企業や、地元の有名企業にばかり人材が流れてしまう」 「面接に来ても、入社前に辞退されてしまう」
首都圏以外で経営をされている社長や、採用を兼務されている担当者の方とお話しすると、こうした「採用」に関する切実な悩みを必ずと言っていいほどお聞きします。
良い人材は都会に出ていって当然。有名企業じゃないし、給与も高いわけじゃないから仕方ない。確かにそういったお考えになる方は多く、採用市場が厳しさを増す中で、地方の、特に中小企業にとって採用活動が「厳しい戦い」であることは事実です。
しかし、本当に問題は「地方だから」「有名じゃないから」という、変えられない“立地”や“知名度”だけにあるのでしょうか。必ずしも、そうとは言えません。
一方で、地方の中小企業でも、優秀な人材や自社にマッチした人材の採用に成功している例は数多くあります。
採用に成功している企業は一体「何が」違うのでしょうか。
本記事では、「うちは地方だから」という“諦め”を乗り越え、採用に成功している地方企業の具体的な事例にフォーカスします。大企業ではない、私たちにとって身近な企業の「現実的な」成功事例から、明日から実践できる採用戦略のヒントを一緒に見つけていきましょう。
目次
多くの地方企業が陥る「採用の落とし穴」
具体的な事例をご紹介する前に、まず、多くの地方企業が知らず知らずのうちに陥ってしまっている、共通の「落とし穴」について整理します。
もし、皆さんの会社が「採用がうまくいかない」と感じているならば、このどれかに当てはまっている可能性が非常に高いです。
<落とし穴①>
「昔はこれで採れた」という成功体験への依存
かつては、地域のつながりや縁故(えんこ)採用、あるいはハローワークに出しておけば応募が集まる時代がありました。しかし、採用市場は完全に「買い手市場」から「売り手市場」へと変化しています。中途採用が当たり前になったことや、働き方や人事制度を改革する会社が増えたことにより、更に競争が激化しています。昔のやり方を続けていては、今の求職者には響きません。
<落とし穴②>
「お金さえかければ」という勘違いと、「どうせうちの会社は」という諦め
「高いお金を払って大手の求人サイトに載せれば応募が来るに違いない」と考える一方で、効果が出ないと「やはりうちみたいな会社には無理だ」と両極端に振れてしまうケースです。残念ながら採用は、広告費に比例して成功するわけではありません。エリアや業界、会社規模によって採用のやり方は異なります。
<落とし穴③>
最も危険な「戦略なき採用活動」
これが一番深刻です。社長や担当者に「どんな人が欲しいですか?」と尋ねると、 「普通の人でいいんです」 「当たり前のことが、当たり前にできる人」 「コミュニケーション能力が高い、明るい人」 という答えが返ってくることが非常に多い。
一見、人物像を描けているように見えますが、実は何も定義していないのと同じです。例えるのであれば「美味しいご飯であれば何でも食べます」といった状況に似ています。
「普通」とは何でしょうか?「当たり前」とは何を指すのでしょうか?
この「曖昧な人物像」のまま採用活動を始めることこそが、最大の落とし穴です。「で、具体的に何をすればよいの?」と目先の求人票の書き方といった「対処療法」に終始し、自社が本当に採用すべき人物は誰なのか、その人に何を伝えるべきか、という「戦略」が抜け落ちてしまうのです。
【事例解説】「ない」を乗り越えた、地方企業3社の採用戦略
採用がうまくいっている会社は、決して全国的に有名な大企業ばかりではありません。むしろ、自社の「強み」と「弱み」を冷静に分析し、採用すべき人物像を明確に定め、戦略的に採用活動を行った企業こそが成功を手にしています。
ここでは「給与」「採用に割ける人手」「知名度」という、地方企業が抱えがちな「ない」を乗り越えた、3社の事例をご紹介します。
<事例1>「給与」ではなく「想い」で採用した、側島製罐様
愛知県で「缶」を製造する、100年以上の歴史を持つ老舗メーカー、側島製罐様。同社もかつては、人材の確保と定着に悩んでいました。特に地方の製造業は、待遇面だけで大手企業と勝負するのは困難です。
同社が取り組んだのは、給与や待遇といった「条件」で勝負する採用ではなく、「理念」や「想い」に共感してくれる人を集める「理念共感採用」への舵切りでした。
【課題】
大手企業と給与や待遇面で比較されると不利。人材が定着しない。
【戦略】
経営理念を「私たちは『缶』を通して、人々に『ワクワク』を届けます」と刷新。この理念をただの「お題目」にせず、WEBサイトや会社説明会、面接の場、さらには社員教育の根幹に据えました。
【具体策】
面接では「給与がいくら欲しいか」といった条件の話よりも、「この理念に共感できるか」「どんなワクワクを創りたいか」という対話を重視しました。
【結果】
すぐに給与や条件を求める人は来なくなりました。しかし、会社の「想い」に強く共感し、「この会社で働きたい」という熱意を持った人材が集まるようになり、採用のミスマッチが激減。結果として定着率も大幅に改善しました。
条件だけで選んだ人は、より良い条件の会社が現れれば去っていきます。しかし「想い」でつながった人は、困難な時も一緒に乗り越えてくれる仲間になります。側島製罐様は、給与では測れない「働く価値」を明確に言語化し、発信することで採用を成功させた好事例です。
<事例2>「専任ゼロ」を「全社採用」で乗り越えた、iYell(イエール)株式会社様
「うちでは採用専任の担当者なんて置けない。社長や総務が兼務でやっているから、手が回らない」という悩みは非常によくお聞きします。
住宅ローン関連の事業を展開するiYell様も、創業期は採用に(割ける)人手や時間がありませんでした。しかし同社は、驚くべきことに従業員の約半数(50%)を「リファラル採用(社員紹介)」で採用しています。
【課題】
採用に専任担当者を置く人手(ひとで)がない。採用コストもかけられない。
【戦略】
採用活動を「人事部の仕事」と捉えるのをやめました。「自分たちの仲間は、自分たちで集める」という「全社採用」の文化を徹底して醸成したのです。
【具体策】
「採用は人事の仕事」という意識を変えるため、全社員が集まる会議(全社会議)で、必ず「リファラル採用(社員紹介)」について考える時間を設けました。「今、自分の部署ではどんな人が必要か」「あなたの周りに、うちの会社で活躍できそうな人はいないか」と全社員で議論するのです。
【結果】
社員一人ひとりが「採用の当事者」となり、自社の魅力や課題を自分の言葉で語れるようになりました。その結果、広告費に頼らずとも、自社をよく理解した社員の「お墨付き」の人物が集まるようになり、採用コストと工数を大幅に削減しながら、質の高い採用を実現しています。
<事例3>「求人票の工夫」だけで応募を増やした、株式会社サン・クレア様
「ハローワークや求人サイトに載せても、他社に埋もれて応募が来ない」という悩みも深刻です。
広島県福山市でホテルなどを運営するサン・クレア様は、この「伝え方」を徹底的に見直すことで、採用成果を劇的に改善させました。
【課題】
知名度や立地で他のホテルに勝てず、求人票の応募が月平均2名程度と低迷。
【戦略】
「誰でもいいから来てほしい」という曖昧な募集を一切やめました。「会社が本当に来てほしい人物像(ターゲット)」をたった一人に絞り込み、その人だけに「刺さる」メッセージを設計したのです。
【具体策】
例えば「支配人候補」の募集。「ホテル経験者、マネジメント経験者」といったありきたりな言葉ではなく、「飲食店の店長経験者で、数字の管理は得意だが、今の会社の評価制度に不満を持っている人」というように、超具体的にターゲットを設定しました。 そして求人票やスカウトメールには、「あなたのその経験、うちならこう活かせます」「うちはこういう評価をします」と、まるで“手紙”を書くように具体的な言葉で語りかけました。
【結果】
ターゲット外からの応募は減りましたが、本当に来てほしい層からの応募が殺到。月平均2名だった応募が12名に増加し、採用コストは半分以下に。応募者の質が上がったことで、面接の決定率も大幅に改善しました。
同社は「あれもこれもできるスーパーマン」を求めるのではなく、「この仕事だけは得意な人」にターゲットを絞り込み、その人に届く言葉で発信したのです。
成功事例に共通する「採用戦略」3つの鉄則
ご紹介した3社は、業種も違えば、取った戦術も異なります。しかし、その根底にある「採用戦略」の考え方には、非常に重要な共通点があります。
これこそが、地方の中小企業が採用を成功させるための「鉄則」です。
鉄則1:捨てる勇気を持つ(=「理想の人物像」を明確に絞り込む)
「うちの会社はスーパーマンなんて求めていない。ただ『普通の人』『当たり前のことができる人』が欲しいだけなんだ」
多くの社長や担当者様は、口を揃えてそうおっしゃいますし、本気でそう思っていらっしゃいます。
しかし、その「普通」や「当たり前」の基準が、無自覚のうちに高くなりすぎてはいないでしょうか?
例えば、「自分で考えて行動し、明るくコミュニケーションが取れ、パソコンも一通り使えて、多少の雑務も嫌な顔せず引き受けてくれる人」。
これを「普通」と考えているとしたら、要注意です。人間は日々困難を乗り越えていく中でできるようになることが増えていくため、「普通の基準」は上がっていくものです。
採用がうまくいかない企業の多くは、この「無自覚に高くなったハードル」に気づかないまま、応募者を”普通未満”と判断してしまっています。
サン・クレア様(事例3)が成功したのは、「飲食店の店長経験者で、今の評価に不満がある人」というように、採用する人をたった一人に絞り込む「勇気」を持ったからです。
「こんなに絞ったら、応募が余計に来なくなるのでは?」と不安になるかもしれませんが、逆です。すべての人に響くメッセージは、誰にも響きません。「あなた」にだけ届くメッセージだからこそ、ターゲットの心に刺さります。まずは「誰を採用しないか」を決め、自社の「普通」のハードルを見直すことが、戦略の第一歩です。
鉄則2:「給与」以外のアピールポイントを言語化する(=自社の「魅力」を棚卸しする)
「うちの会社にアピールできる給与水準なんてないよ」と社長はおっしゃいます。本当にそうでしょうか?
側島製罐様(事例1)は、「ワクワクを届ける」という“想い”を言語化しました。iYell様(事例2)は、「仲間を大切にする」という“文化”を社員自らが語っています。
社長が大切にしている経営理念 地域社会に対して、自分たちの仕事がどう役立っているか (たとえ小さくても)社員の成長をどうサポートしているか 職場の雰囲気や、ユニークな社内制度。
これらはすべて、給与や待遇とは別の、御社だけが持つ立派な「魅力」です。お金では買えない価値を求めている求職者は、必ず存在します。まずは自社の「魅力」を棚卸しし、それを言葉にすることが必要です。
鉄則3:「待ち」の採用から「伝える」採用へ(=ターゲットに届く言葉で発信する)
ハローワークや求人サイトに求人票を「出して、待つ」だけの採用活動は、もはや通用しません。
iYell様(事例2)は、社員全員が「採用担当」として、自社の魅力を友人・知人に「伝え」ています。サン・クレア様(事例3)も、求人票という名の「手紙」をターゲットに届くよう工夫し、積極的に「伝え」ました。
先に絞り込んだ「たった一人のターゲット」(鉄則1)に、私たちが見つけた「給与以外の魅力」(鉄則2)を、どうすれば届けられるか。
WEBサイトを直すことかもしれませんし、社長がSNSで発信することかもしれません。あるいは、社員に協力してもらうことかもしれません。大事なのは、「どうせ応募が来ない」と諦める前に、ターゲットに届く言葉で「伝える努力」をすることです。
採用成功の第一歩は「うちには何もない」という思い込みを捨てること
今回ご紹介した3社も、最初からすべてがうまくいっていたわけではないでしょう。多くの会社と同じように、「人手がない」「お金がかけられない」「知名度もない」という悩みを抱えながら、試行錯誤を続けてきました。
採用を成功している企業に共通していたのは、「うちには何もない」という思い込みを捨てたことです。
人手やお金といった「資源」が限られている地方の中小企業だからこそ、「戦略」が重要になります。誰を採用し、誰を採用しないのか。何を魅力として伝え、何を伝えないのか。この取捨選択こそが戦略です。
そして、採用は「人事の仕事」ではなく、「経営そのもの」です。社長が、経営者が、どれだけ本気で「仲間集め」にコミットできるか。それが最大の成功要因です。
この記事を読んで、「うちも何か変えなければ」と感じていただけたなら、まずは社長室で、あるいは担当者様と2人でも結構です。
「自社が本当に大切にしている価値観は何か?」 「次に採用する『たった一人』は、どんな人か?」
この2つを、書き出すことから始めてみるのはいかがでしょうか。
私たちは、地方の中堅中小企業の「採用が変わる」お手伝いをしています。
「うちの場合、具体的にどうすれば?」と悩んだら、ぜひお気軽にご相談ください。
御社の採用活動方法や現在のお悩みをお聞かせいただきながら、
解決策や具体的な手法をご提案させていただきます。
まずはお悩み相談から、お気軽にお問い合わせください。

