「8時始業」が会社を弱くする?採用力と営業効率を最大化する「就業時間」の改定とは
「うちは製造業だから、全員8時始業。それが一番管理しやすい」
「職種によって時間が違うと、心の距離まで離れてしまいそうで不安だ。」
長年、このスタイルで組織の一体感を作ってこられた経営者様も多いと思います。
しかし今、成長している企業の多くが、この「全社一律」のルールを見直し始めています。 それは単なる「社員への優しさ」だけではありません。「その方が利益が出やすいから」という、極めて合理的な経営判断に基づいています。
今回は、感情論ではなく「事実」と「成果」に基づいた、職種別・就業時間のデザイン方法について解説します。 なぜ今、時間をズラすことが「勝てる組織」への最短ルートなのか。その根拠と実行手順を紐解いていきます。
【事実①】 顧客の活動時間と「1時間のズレ」が生む損失
まずは営業職のパフォーマンスについて、分析をしていきます。
多くのBtoB企業の始業時間は「9:00」です。
もし御社の営業担当が、工場に合わせて「8:00」に出社していた場合、最初の1時間は何をしているでしょうか? 掃除やメールチェックはできますが、肝心の「顧客への架電・訪問」はできません。相手がまだ始業していないからです。
一方で、夕方の「17:00〜18:00」
ここは多くの企業がラストスパートをかける時間帯であり、「最も電話が繋がりやすいゴールデンタイム」の一つです。 しかし、8時始業の会社は17時に定時を迎えてしまいます。
- 8:00〜9:00: 顧客が不在で、売上を作れない時間
- 17:00〜18:00: 顧客が在席しており、商機がある時間
つまり、朝夕の2時間に加えてお昼休みの1時間を加えると3時間もの時間を顧客接点が確実に持てない時間にしてしまっているということです。この事実に基づけば、営業職を「9:00〜18:00」にシフトさせることは、働き方改革以前に「営業効率の最大化」という明確な戦略になります。 「工場の終了後、18時まで営業が電話番をできる」という体制は、工場側の残業削減にも直結する合理的な判断なのです。
【事実②】 採用市場のリアルと「8時始業」の壁
次に、採用市場のデータを見てみましょう。
地方企業が喉から手が出るほど欲しい「20代〜40代の子育て世代(特に事務・営業経験者)」の生活時間です。
以下に、共働き夫婦の平均的な1日のスケジュールを見てみます。(参考:KIDSNA®シッター様より)


一般的な保育園の送迎時間は7:30〜8:30に集中しています。 「8:00始業」の場合、子供を預けてから出社するのは物理的に不可能です。 つまり、「始業が8時」というだけで、この優秀な層をエントリー段階で足切りしてしまっているのが現実です。
逆に言えば、「9:00始業(または時差出勤可)」にするだけで、採用ターゲット人口は一気に跳ね上がります。 これは推測ではなく、多くの企業で実証されている数字の事実です。
首都圏の企業の場合、フルフレックス制度やリモートワーク制度を積極的に導入しているため、地方の優秀人材が地方にいながら首都圏企業に勤めるという事例も増えてきています。そのため、地方企業の就業環境も見直すべき時代に突入していると言えるでしょう。
※日本総研より少子化時代における働き方の調査報告が出ていました。こちらも是非お読みくださいませ。

【実践】 合理的に時間をデザインする4つのステップ
営業時間の確保や優秀人材の採用に向けて、企業にとっても実利のあるお話であるということは伝わったことと思います。しかし、ここで経営者、経営企画の皆様から「導入しようとしても工場から反発の声があがりそう。」「導入するにあたって新しい就業規則、新しいシステムに刷新するとなった場合、現場が混乱しそう。」という声が聞こえてくるはずです。
では、実際にどうすれば「現場の混乱」や「不公平感」を生まずに、この合理的な体制へ移行できるのか。 明日から始められる、実務的なステップをご提案します。
Step 1:業務ログによる「依存関係」の可視化
まずは「感覚」ではなく「記録」で判断します。
直近1ヶ月、8:00〜9:00の間に「工場と営業が対面で行った必須業務」が何回あったか、記録を確認してください。
- 例1:2026年1月4日~2026年1月31日の間の該当時間での工場と営業での挨拶はあったが、納入品の搬入や整理で双方ひざを突き合わせて話し合う業務は午後にしかなかった。
- 例2:朝礼は部署ごとに行っており、月1回の全社会のときのみ8:30からの30分間、一同に会していた。
上記のような事例は非常に多くあります。月1回の全社会議のために、全部署一律の就業時間で働く。代償は3時間×営業日数の営業機会損失です。
「なんとなく必要だと思っていたが、データで見ると必須ではなかった。」という事実を共有することが、現場の納得感を作る第一歩です。
Step 2:法的根拠の整備(就業規則の改定)
制度変更は「口約束」ではいけません。法的リスクをゼロにするために、ルールの土台を固めます。
- 就業規則の変更が必要です: 「全社員一律」の規定から、「職種別の始業・終業時刻」または「時差出勤制度」を明記します。
- 専門家(社労士)との連携しましょう: ここはコストをかけるべき投資領域です。「営業効率と採用力を上げるために時間を変えたい」とオーダーすれば、御社の実情に合った、最もリスクの少ない規定案を作成してくれます。
Step 3:コスト0円のツールで「運用」を回す
「フレックス導入には高価な勤怠システムが必要」というのは、システム会社のセールストークに過ぎません。 従業員数数十名の規模であれば、既存のアセット(資産)で十分運用可能です。
- 時差出勤(シフト制)の活用:
「9:00〜18:00」という固定枠を増やすだけなら、労働時間の計算ロジックは変わりません。今のタイムカードやExcel集計がそのまま使えます。 - 無料ツールの活用:
Googleフォームやビジネスチャットで「9時から業務開始します」と打刻代わりの連絡を入れる。これだけで法的な勤怠記録として成立します。
Step 4:採用要件への反映と「実利」の獲得
体制が整ったら、求人票やHPに記載の情報を書き換えます。ここに「事実」を記載します。地域の競合他社が就業規則の変更やフレックスタイム制・時差出勤制の導入をしていない場合、広報やPRをしてみても良いかもしれません。
- Before: 8:00〜17:00
- After: 9:00〜18:00(※(例)営業職は顧客の稼働時間に合わせて最適化しています)
「柔軟さ」のアピールだけでなく、「従業員に向き合っている会社である」という姿勢を示すことで、ビジネス感度の高い人材が集まります。
【具体事例】地方企業のモデルケース
I-PEX株式会社(本社:福岡県)
コネクタなどの精密部品を製造するグローバル企業ですが、地方(福岡・小郡など)に拠点を置きながら、非常に柔軟な働き方を導入しています。

- 施策: コアタイムなしのフルフレックス制度を導入。
- 背景: 地方の製造業は「朝が早い」のが通例ですが、同社はエンジニアやグローバル人材の確保を重視。
- 効果: 「福岡にいながら、外資系やIT企業のような働き方ができる」という点が評価され、Uターン・Iターン希望者の受け皿となっています。
TOA株式会社(本社:兵庫県神戸市)
業務用音響機器(PAシステムなど)の老舗メーカーです。地方都市に拠点を構えるメーカーとしての先駆的事例です。

- 施策: 「スーパーフレックス制度」(コアタイムなし)の導入。
- 背景: 「神戸という地で、いかに社員の創造性を引き出すか」を重視。
- 効果: 育児中の社員だけでなく、趣味や自己研鑽を重視する若手層の採用力が向上。特に、車通勤が主となる地方拠点では、「渋滞ピークを避けて出社できる」ことが実質的な通勤時間の短縮(=可処分時間の増加)として喜ばれています。
北星産業株式会社(北星ファイブ)(本社:石川県)
こちらはITや製造ではなく、より地域に根ざした「サービス・小売(ガソリンスタンド・車検)」を展開する企業です。

- 施策: サービス業でありながら、部署ごとに柔軟なシフト制や労働時間の短縮を断行。
- 背景: 地方のサービス業は深刻な人手不足。旧来の「長時間拘束・早朝深夜」では人が集まらないという危機感。
- 効果: 働きやすさを前面に押し出すことで、同業他社が採用に苦戦する中、地元での採用ブランドを確立。「休みが取れる、時間が選べる」という口コミが広がり、若手や主婦層の採用に成功しています。
まとめ:時間は「管理」するものではなく「戦略」である
「みんな一緒」は管理コストとしては楽かもしれません。 しかし、その対価として「営業機会」と「優秀な人材」という莫大な利益を失っているとしたら、それはあまりに高すぎるコストです。
職種に合わせて時間を最適化することは、決して「楽をするため」ではありません。 会社全体のパフォーマンスを最大化し、利益を生み出すための「攻めの戦略」です。
「データに基づいた制度設計をしたい」「就業規則の見直しから相談したい」という経営者様。 ぜひ一度、ご相談ください。御社の事業特性とデータを分析し、最も合理的な「時間戦略」をご提案します。
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