「条件」だけがすべてじゃない。「伝え方」ひとつで求職者の心が動く「求人票の書き方」
前回の記事で、自社の「隠れた魅力」を掘り起こすワークを行いました。「うちにも、語れるストーリーや良い風土があったんだ」と再発見された方も多いのではないでしょうか。
しかし、ここで新たな壁にぶつかることがあります。 「素材(魅力)は見つかった。でも、これをどう求人票に書けば、求職者に響くのだろうか?」
給与や休日数といった「条件」の数字だけで比較されれば、どうしても資本力のある大手企業や、都市部の有名企業の方に目が向きがちです。ですが、求職者は決して「数字」だけで就職先を決めているわけではありません。
彼らが探しているのは、数字の先にある「納得感」や「自分が働くイメージ」です。
たとえ条件面で際立った特徴がなくても、今ある魅力を求職者の視点に合わせて「翻訳(変換)」してあげるだけで、その情報は驚くほど深く、相手の心に届くようになります。
本記事では、特別なライティング技術を習得するのではなく、「伝える視点」を少し変えるだけで実践できる、求職者の心を動かすための「求人票の書き方」について解説します。
- なぜ、あなたの求人票はスルーされるのか?(「スペック表」の罠)
- 誰でもできる「3段階の翻訳」メソッド
- 【実践】「よくあるフレーズ」を劇的に変えるBefore/After
- まとめ:求人票は「説明書」ではなく「ラブレター」である
なぜ、あなたの求人票はスルーされるのか?(「スペック表」の罠)
一生懸命書いた求人票なのに、なぜか反応が薄い。 その原因の多くは、求人票が「家電製品のスペック表(仕様書)」になってしまっていることにあります。
例えば、求人票の備考欄やPR欄に、このような言葉が並んでいないでしょうか?
- 「創業100年の安定企業です」
- 「残業は月平均10時間以内です」
- 「転勤はありません」
- 「アットホームな職場です」
これらはすべて、嘘偽りのない「事実(Fact)」です。 しかし、求職者(読み手)からすると、これらは単なる「機能の説明」に過ぎません。
私たちが家電を買う時を想像してみてください。 「モーターの回転数が毎分○回転です」というスペック(事実)だけを書かれても、ピンときません。 「この掃除機なら、微細なホコリも吸い取って、アレルギーのあるお子様も安心して暮らせます」という「生活の変化(未来)」を伝えられて初めて、「これが欲しい!」と心が動くはずです。
もし、パナソニック製の掃除機が機能性のことばかり記載していたら購入意欲は下がってしまうと思います。下記のHP内には「スイスイ、楽に動かせる」「階段など、少し持ち上げて掃除するのもラク」など、実生活シーンを想起できるような説明が上手に散りばめられています。
採用も同じです。 求職者は「創業年数」や「残業時間」というデータそのものが欲しいのではありません。その会社に入ることで、「自分の生活がどう良くなるのか」「どんなキャリアが描けるのか」という未来を知りたがっています。
「事実」を並べるだけでは、相手にその意味を解釈させる労力を委ねてしまいます。 そうではなく、企業側が一歩踏み込んで「この事実は、あなたにとってこういうメリットがあるんですよ」と言語化してあげること。
これが、多くの地方企業が見落としている、しかし最も重要な「伝え方」の鍵です。
誰でもできる「3段階の翻訳」メソッド
では、具体的にどうすれば「事実」を「魅力」に変えられるのでしょうか。 私たちは、情報を伝える際に以下の3つのレベルがあると考えています。
企業側が発信する情報は、往々にして「Lv.1」で止まってしまいがちですが、求職者の心が動くのは「Lv.3」に到達した時です。
- Lv.1 事実(Fact): 会社の特徴や制度そのもの。
- Lv.2 利点(Advantage): その事実がもたらす一般的な良い点。
- Lv.3 便益(Benefit): その結果、求職者個人の生活やキャリアがどう素敵になるか(未来)。
例として、「転勤がない」という事実を翻訳してみましょう。
【Lv.1 事実】 「当社は転勤がありません」 (※これだけだと、単なる制度説明です)
↓
【Lv.2 利点】 「一箇所で腰を据えて長く働けます」 (※一般的ないいことですが、まだ少し抽象的です)
↓
【Lv.3 便益(Benefit)】 「念願のマイホームを購入しても、単身赴任の心配はありません。子供の転校を気にすることなく、家族との時間をずっと大切にできます」 (※ここまで書くと、求職者は自分の生活の中にその会社がある風景をイメージできます)
いかがでしょうか。 特別な文章テクニックを使ったわけではありません。「で、それは求職者にとってどんないいことがあるの?」と、相手の視点に立って深掘りをしただけです。
この「Lv.3」まで言葉を届けることこそが、条件の数字だけでは伝えきれない、御社だけの価値を伝える「求人票の書き方」なのです。
【実践】「よくあるフレーズ」を劇的に変えるBefore/After
それでは、地方企業でよく見かける「事実(Fact)」を、求職者の心に届く「便益(Benefit)」に変換する実践例を見てみましょう。
自社の求人票に使えそうなフレーズがあれば、ぜひ参考にしてください。
ケース①:「未経験歓迎」
●Before(事実): 「未経験者歓迎。イチから丁寧に指導します。」
●After(便益): 「あなたの”初めて”を、チーム全員の風土醸成のレッスンの機会と捉えています。失敗しても責められることはありません。1年後には、あなたが後輩に『大丈夫だよ』と教えられるよう、私たちが責任を持って育てます。」
ケース②:「少人数の職場」
●Before(事実): 「従業員数10名の小規模な職場です。」
●After(便益): 「社長のデスクがすぐ隣にあります。あなたの『こうしたらもっと良くなる』というアイデアが、翌日には事業として動き出すスピード感があります。指示待ちの環境ではなく、エンジンとして活躍したい方には最高の環境です。」
ケース③:「残業が少ない」
●Before(事実): 「残業は月平均10時間以内です。」
●After(便益): 「18時にはほとんどの社員が退社しています。平日でも家族と夕食を囲んだり、趣味のフットサルで汗を流したり。仕事だけの人生にならず、プライベートも充実させるからこそ、翌日また良い仕事ができると考えています。」
このように書き換えることで、求職者は「条件」を見ているのではなく、「そこで働いている自分の姿」を見ることができます。ここまでイメージさせることができれば、応募ボタンを押すハードルはぐっと下がります。
まとめ:求人票は「説明書」ではなく「ラブレター」である
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
「求人票」というと、どうしても公的な書類のような堅苦しいイメージを持ってしまうかもしれません。しかし、その本質は、未来の仲間に向けた「ラブレター」です。特に地方企業の場合、近隣だけでなく、その地域の土地勘がない人が応募してくる可能性もあります。
そんな時、条件だけを「以上」と提示されても、読み手はその土地での生活や、入社後の具体的な毎日を描くことは到底不可能です。「生活が描けない」ことは、そのまま「応募への躊躇」に直結します。世の中に求人は多数存在するため、応募の優先順位が下がってしまうのです。
だからこそ、「うちに来れば、仕事も生活もこんな風になりますよ」と、相手の人生まで想像して言葉を紡ぐことが必要です。
まずは、前回の記事で見つけた自社の魅力を一つ取り上げ、「これは求職者にとって、どんなハッピーな未来になるだろう?」と問いかけてみてください。
もし、「自分たちだけでは客観的な『便益(Lv.3)』が見つからない」「書いてみたけれど、独りよがりになっていないか不安だ」と感じられたら、ぜひ私たち株式会社せんのみなとにお声がけください。
第三者の視点から御社の魅力を掘り起こし、求職者の心に響く言葉へと「翻訳」するお手伝いをいたします。


